9月8日の「ゼルダの伝説40周年 Direct」、そして翌9日の「Nintendo Direct 2026.9.9」。2夜続けて任天堂の大型配信が行われ、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のNintendo Switch 2版や『星のカービィ ワールドビヨンド』など、多くの新作情報が発表された。ゲーム好きとしては、『時のオカリナ』についてはかなり気になっているし、通常のNintendo Directも新作が次々に出てきて見応えがあった。ところが任天堂の株価を見ると、ずいぶん違う景色が見えてくる。
任天堂株はDirectへの期待から9月8日に一時8,995円まで上昇したものの、ゼルダDirect翌日の9日は8,401円となり、通常のNintendo Direct翌日の10日には7,989円まで下落した。11日は8,093円まで反発したが、それでも9月8日終値の8,750円から約7.5%安となった。なぜ、人気タイトルであるゼルダもカービィも発表されたのに任天堂株は下がったのだろう。
考えてみると、これは「今回のニンダイは良かったか、悪かったか」という話だけではない気がする。むしろ今、市場がSwitch 2に何を期待しているのか。その違いが表れた2日間だったのではないだろうか。
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※本記事はゲーム会社の動向を考えることを目的としたもので、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。
Directへの期待で上がり、発表後には大きく下落

9月8日の市場では、同日夜の「ゼルダの伝説40周年 Direct」と翌日の通常Nintendo Directへの期待が材料視され、任天堂株は3営業日ぶりに反発した。実際、一時8,995円まで上昇している。つまり少なくとも発表前には、「何か大きなものが出てくるのではないか」という期待が株価にも乗っていたと見てよさそうだ。
夜に発表されたのは、11月5日発売のNintendo Switch 2版『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。1998年のNINTENDO 64版をフルリメイクするほか、10月29日にはゼルダ40周年仕様のSwitch 2本体も発売される。ゼルダファンにとっては十分に大きな発表だった。ところが翌9日の終値は8,401円。前日の8,750円から約4%下落した。そしてその日の夜に開催された通常Nintendo Directでは、『星のカービィ ワールドビヨンド』をはじめ、『モンスターハンターワイルズ』のSwitch 2版など多数の新作情報が公開されたが、翌10日はさらに4.9%安の7,989円まで下落した。
株式市場では、今回のNintendo Directで『大乱闘スマッシュブラザーズ』など超大型タイトルの新作を期待する向きがあり、イベント通過後に「材料出尽くし」と受け止められたとの見方も報じられている。私はここが結構面白いと思った。ゲームファンから見れば「ゼルダもある、カービィもある、モンハンも来る」。一方、株式市場からすれば「で、それは事前に想像していた以上の材料だったのか」という話になる。同じNintendo Directを見ていても、見ているものが少し違う。
そもそもNintendo Directの後は株価が上がるものなのか
そこで過去のNintendo Direct前後の様子も振り返ってみよう。
2023年9月14日のNintendo Directでは『プリンセスピーチ Showtime!』『F-ZERO 99』『ペーパーマリオRPG』などが発表されたが、任天堂株は14日終値6,354円から翌15日6,338円へ約0.3%下落した。2024年6月18日のDirectでは『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』『メトロイドプライム4』などが登場したものの、翌19日は8,672円から8,581円へ約1%安だった。
さらに2025年4月2日のNintendo Switch 2 Directでは、Switch 2の発売日、価格、『マリオカート ワールド』などが正式発表された。それでも翌3日の株価は10,420円から10,080円へ3.26%下落している。もちろん、株価はDirectだけで決まるわけではなく、市場全体や為替、海外情勢などさまざまな要因が入るため、これらをすべて「Directの評価」とすることはできない。
それでも分かるのは、豪華なNintendo Directをやれば翌日の任天堂株が上がる、という単純な関係ではないということだ。これは考えてみれば当然なのかもしれない。ゲームファンは発表されたものを見て「面白そう」「欲しい」と評価する。株式市場はそれに加えて、発表前にどれだけ期待されていたか、そのタイトルが将来のハードやソフトの販売予想を変えるほどのものなのかを見る。株価はNintendo Directの感想欄ではない。今回も「カービィが面白くなさそうだったから株価が下がった」という話ではないはずだ。
カービィが悪いのではなく、“もう一本”を期待されていたのではないか
通常Nintendo Directのトリを飾ったのは、2027年春発売予定の『星のカービィ ワールドビヨンド』だった。3Dフィールドを自由に探索するシリーズ完全新作で、ゲームそのものには私も興味がある。カービィは決して小さなIPではない。

ただ、配信を見終えたときに「最後はカービィか…」と感じた人は、私だけではなかったのではないだろうか。
事前には海外の任天堂ファンを対象にしたアンケートでも新作3Dマリオへの期待が高く、市場でもスマブラ級の新作を期待する向きがあったと報じられている。Switch時代の累計販売を見ると、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』は3,814万本、『スーパーマリオ オデッセイ』は3,080万本を売っている。新作が発表されれば、Switch 2を買う理由になり得る非常に大きなIPだ。
ここで考えたいのが、タイトルごとの「誰が財布を開くのか」という違いだ。『時のオカリナ』は1998年のゲームだ。当時子どもだった私のような世代はいま30代後半から40代に入っている。今回のリメイクは新しい世代にも向けられているだろうが、「あの時の時オカをもう一度」と自分のお金で買える大人の懐古需要はかなり強いと思う。ゼルダ仕様のSwitch 2まで用意したところを見ると、そうしたファンに本体ごと訴求する力も期待できる。
一方、カービィは少し性格が違う。もちろん昔から遊んでいる大人のファンもいる。ただ、カービィは親から子へ世代を越えて渡っていきやすいIPでもあると思う。大人が自分のために6万円近いゲーム機を買うのと、子どもが「欲しい」と言って親がクリスマスに買い与えるのとでは、同じ1台でも購入までの心理は違う。だからといって、ゼルダのほうが上、カービィが下という話ではない。それぞれ違う層を連れてこられるのが任天堂の強さだ。
ただ、市場がSwitch 2のさらなる成長を期待しているとすれば、カービィに加えて、子どもから大人まで幅広く「これのためにSwitch 2を買う」と言わせるスマブラや新作3Dマリオ級の一本まで欲しかった――。私は今回の株価の動きを見て、そんな期待値の高さもあったのではないかと感じている。
Switch 2は売れていないどころか、すでにかなり売れている
ここで確認しておきたいのが、Switch 2そのものは決して売れていないわけではないことだ。2026年6月末時点の世界累計販売台数は2,368万台。数字だけを見ると多いのか少ないのか分かりにくいが、過去の任天堂ハードと比べると、その立ち上がりの速さが見えてくる。

初代Nintendo Switchは2017年3月に発売され、翌2018年3月末までの約13か月で累計1,779万台を販売した。それに対してSwitch 2は2025年6月の発売から2026年3月末までの約10か月で1,986万台。発売時期が違うので完全な同条件比較ではないものの、初代Switchより短い期間で約200万台多く売れている。任天堂自身も、Switch 2は初年度の販売が従来ハードより集中し、強い立ち上がりだったと説明している。
もう少し身近な比較をすると、2026年6月末のSwitch 2は2,368万台なので、すでにWii Uの生涯販売台数1,356万台を大きく超え、ゲームキューブの2,174万台も上回った。発売からまだ1年あまりのゲーム機が、任天堂の過去ハード2機種の最終販売台数をすでに抜いていると考えると、2,368万台という数字の大きさが分かりやすい。
もちろん、初代Switchは最終的に1億5,659万台まで伸びている。Switch 2がこの水準まで到達できるかはまだ分からない。むしろ、ここからが難しいところだろう。
初年度に約2,000万台を売ったということは、それだけ早い段階で「欲しかった人」に本体が行き渡ったとも考えられる。任天堂は2027年3月期にSwitch 2をさらに1,650万台販売する計画だが、前年度の1,986万台からは減少する予想になっている。任天堂自身も価格改定などを踏まえて前年割れを見込んでいる一方、「発売2年目として堅調な普及水準」と説明している。だから今回の株安を「Switch 2が売れていないから」と説明するのは無理がある。むしろ逆ではないだろうか。
初代Switch以上の勢いでスタートしたからこそ、その高い販売水準を2年目も維持するために何を出すのか。市場がNintendo Directに求めていたのは、そこだったのかもしれない。
今回のDirectの本当の答えは、年末商戦で見えてくる
私は今回の2夜連続Directを、ゲームファンとしては決して悪かったとは思っていない。特に『時のオカリナ』は遊びたい。NINTENDO 64版を知っている世代として、昔の記憶を残しながら現代のゲームとして作り直されたハイラルには素直に惹かれる。ただ、「この発表でSwitch 2をさらに何百万台も押し上げられるか」と聞かれると、話は別だ。
『時のオカリナ』は11月5日発売なので、2026年のクリスマス商戦に直接入ってくる。一方、『星のカービィ ワールドビヨンド』は2027年春発売。つまり今年の年末に関しては、今回最大の新作だったカービィはまだ戦力にならない。そして『時のオカリナ』発売からわずか2週間後の11月19日には、『Grand Theft Auto VI』がPS5とXbox Series X|S向けに発売される。ジャンルも客層も完全に同じではないが、少なくとも自分のお金でゲームやハードを買う大人のコアゲーム層にとって、年末の巨大な選択肢になるのは間違いない。

だから私は、今回の任天堂株の下落を見て「Nintendo Directは失敗だった」と結論づけるのは早いと思っている。市場はいったん、「期待していたほどの決定打ではなかった」と判断したのかもしれない。しかし、その判断が正しかったかどうかはまだ分からない。
11月に『時のオカリナ』が発売され、クリスマス商戦でSwitch 2がどこまで販売を伸ばすのか。値上げ後の本体を、それでも欲しいと思わせるだけの力を今回のラインアップが持っているのか。そこを見て初めて、今回のDirectに対する評価の一つの答えが出てくるのではないだろうか。そして、そのとき株価がどう動くのかも興味深い。Switch 2が売れたからといって、株価が上がるとは限らない。それがすでに市場の予想通りなら、今回と同じようにほとんど反応しないことだってある。
ゲームファンが「売れた」と感じる数字と、株式市場が「予想以上に売れた」と感じる数字。その違いはどこにあるのか。
今回の記事の本当の答え合わせは、今年のクリスマス商戦でやってみたい。



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