2026年4月、東映は新たなゲーム事業ブランド「東映ゲームズ」を立ち上げた。映画やテレビ、特撮作品を長年手掛けてきた東映が、本格的にゲームを新たな事業領域として展開していく。
最初に発表されたのは、『HINO』『DEBUG NEPHEMEE』『KILLA』の3作品。いずれもSteam向けを中心とした新規タイトルで、仮面ライダーやスーパー戦隊といった東映の既存IPを使ったゲームではない。東映ゲームズは、国内外のクリエイターと組みながら新しい作品を世に送り出し、将来的にはゲームから新たなIPを育てていく方針を掲げている。そんな「東映がゲームを始める」というニュースを見て、最初に思い浮かべたのは、やはり仮面ライダーやスーパー戦隊によるアクション性の高いゲームだ。
海外では『Marvel’s Spider-Man』や『Batman: Arkham Knight』のように、映画やコミックで知られるヒーローを題材にした大作ゲームがいくつも生まれている。近年ではMarvelのヒーローたちが集結する『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』のような格ゲーも登場しており、日本でも東映が持つ膨大なヒーローを使えば、かなり面白いゲームが作れるのではないかと期待が膨らんだ。
ところが、東映ゲームズが最初に発表した3作品を見て、正直なところ少し戸惑った。
仮面ライダーでもなければ戦隊でもない。それどころか、これまで持っていた「東映」という会社のイメージからもかけ離れている。調べてみると、どうやらこれは偶然ではないらしい。東映ゲームズが目指しているのは、既存の人気作品をゲーム化することではなく、むしろゲームから新しいIPを生み出すことだった。
東映なら、ヒーロー主役の大作ゲームを期待してしまう
東映といえば、まず思い浮かぶのは強烈なキャラクターだ。仮面ライダー、スーパー戦隊をはじめ、長い歴史の中で多くのヒーローを生み出してきた。東映アニメーションまで含めれば、『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』をはじめ、少年向けからキッズ向けまで幅広い作品に関わっている。その一方で、仮面ライダーやスーパー戦隊など、東映が長年育ててきたヒーローの蓄積も大きい。そのため、「東映ゲームズ」という名前を聞けば、そうした資産をゲームへ持ち込むことが期待される。
例えば、仮面ライダーを主人公にした本格的なオープンワールドアクションがあってもいい。歴代ライダーや戦隊、メタルヒーローなどが作品や年代を越えて戦う格闘ゲームだって魅力的だ。もちろん権利関係があるため、何でも自由に共演させられるほど単純ではないが、「日本を代表するヒーローを最新のゲーム技術で遊んでみたい」という期待はかなり大きいと思う。
海外ではWarner Bros. Gamesが、『バットマン』や『ハリー・ポッター』などの既存IPを使いながら一本のゲーム作品として高い評価を得た例がある。原作を知っている人向けの“キャラクターゲーム”という枠を越え、大人が数十時間遊べる大作として成立している。
東映には長年培ってきた映画、テレビ、特撮の制作ノウハウもある。それだけに「映画会社である東映が本気でゲームを作ったら、どんなものになるんだろう」という期待を持つのは自然なことだろう。
発表された3作品は、驚くほど「東映らしくない」
現在、東映ゲームズが発表しているのは『HINO』『DEBUG NEPHEMEE』『KILLA』の3作品だ。いずれもSteam向けで、『HINO』はダークな世界観を持つアクションアドベンチャー、『DEBUG NEPHEMEE』は個人クリエイターによる2Dアドベンチャー、『KILLA』は韓国の4人組チームが開発する推理アドベンチャーとなっている。


ラインナップの見た目や開発規模から受ける第一印象は、かなりインディーゲーム寄りだ。それは2Dアドベンチャーであったり、イラストのタッチによる影響も大きい。
これまで東映から連想してきた、ヒーロー、少年漫画的な熱さ、分かりやすく個性的なキャラクターたちが3Dグラフィックで演出されるといった方向とはだいぶ違う。ファンタジー色が強く、絵柄や世界観にもそれぞれのクリエイターの個性が前面に出ている。ところが東映ゲームズのインタビューを読むと、この違和感こそが今回の事業を理解するポイントになってくる。
東映ゲームズは最初から大規模な自社開発スタジオを作ったわけではない。担当者はインディーゲームイベントを回り、多数のクリエイターや作品と出会うところからゲーム事業を始めている。最初の3本も「東映らしいゲーム」という統一されたブランドイメージから選ばれたわけではなく、それぞれの担当者が自分自身で応援したいと思った作品を選んだという。
公式サイトでも掲げているのは、クリエイターの「これが好き」「これが作りたい」という“偏愛”を信じ、その作品を世界へ届ける「共犯者」になるという考え方だ。つまり東映ゲームズは今のところ、「東映が企画したゲームを外部の開発会社に作らせるブランド」というより、面白いクリエイターや作品を見つけ、それを世の中へ送り出すパブリッシャーとしてスタートしている。
映画からゲームを作るのではなく、ゲームから映画を作る
ここが今回、一番面白いと感じたところだ。
東映ゲームズの担当者は、ゲームはプレイ時間が長く没入度も高いため、IPのファンを育て、世界へ展開していくのに向いていると説明している。そして最終的には、ゲームで生まれたキャラクターや世界観をIPとして育て、東映が持つ映画、ドラマ、イベントといったさまざまな出口へ広げていくことを目指している。
これまでなら、映画やアニメがヒットし、その人気を受けてゲームが作られるという流れを想像する。しかし東映ゲームズが考えているのは、その逆である。ゲームからキャラクターや世界観が生まれ、人気が出ればアニメになり、映画になり、イベントや商品へ展開されていく。言ってみれば「ゲームから次の東映作品を作る」挑戦となる。
この考え方を知ると、なぜ最初から仮面ライダーや既存アニメ作品を使わなかったのかも少し見えてくる。
例えば『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』は東映アニメーションが長年アニメ制作に関わっているものの、原作者や集英社など複数の権利者が存在する。ゲームについてもバンダイナムコエンターテインメントなどがライセンスを受けて展開してきた。東映グループにとって重要な作品ではあるが、「東映ゲームズが好きなように展開できる自社オリジナルIP」とは事情が違う。
一方でゲームから新しいIPを育てることができれば、その先の展開にも東映自身が深く関わっていける。成功すればゲーム一本の売上だけではなく、映画、アニメ、イベント、商品化などへ長期的に広がっていく可能性がある。
東映の中長期ビジョンでも「オリジナルを中心とした新規IP創出力の増強」「IPのグローバル展開」「IPライフサイクルの長期化」といった方針が掲げられている。東映ゲームズは単なるゲーム業界への参入ではなく、その戦略の一つとして見る方が実態に近そうだ。

有名クリエイターではなく、少人数の開発チームと組む理由
もうひとつ興味深いのが、最初からゲーム業界の有名クリエイターを大量に集めて大作を作ろうとしていないことだ。
『HINO』を開発するUnGloomStudioは若いクリエイターによる小規模スタジオで、『DEBUG NEPHEMEE』はプログラム、キャラクターイラスト、BGM、ストーリーまで一人で手掛ける個人開発作品。『KILLA』を制作するBlack Tangerineも韓国の4人組チームだ。
東映が「クリエイター育成」を事業目的として明言しているわけではないため、これを人材発掘とまでは断定することはできない。ただ、実際にやっていることを見ると、「完成された有名クリエイターを集める」というより、まだ大きな資本を持たない作り手を見つけ、その作品を東映がパブリッシャーとして世に出し、一緒に育てていく方向に見える。それは東映自身にとっても、ゲームという新しい媒体を学ぶ機会になっているのだろう。
いきなり数十億円規模のAAAタイトルを一本作るより、小規模な作品を複数手掛けながらパブリッシングや海外販売の経験を積み、その中から将来大きなIPになるものを見つけていく。新規事業として考えれば、かなり現実的な方法でもある。
そして今の東映そのものが、長く続いてきた成功パターンから少しずつ変わろうとしているようにも見える。50年間続いてきたスーパー戦隊も『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』の放送終了後、東映特撮の新たなシリーズとして「PROJECT R.E.D.」が始まったなど、方向転換と新たな挑戦が見受けられる。ゲームだけを取り出して考えるのではなく、長年築いてきたブランドを守りながら、その外側に新しい柱を作ろうとしている時期なのかもしれない。その意味では、最初の3作品を見て「東映っぽくない」と感じたこと自体が、東映ゲームズにとっては狙い通りなのかもしれない。
それでも、やっぱり「映画会社が作るゲーム」を見てみたい
ここまで調べると、推論の域を脱しないにしても東映ゲームズがやろうとしていることはかなり理解できた。
既存IPに頼るのではなく、ゲームから新しいキャラクターや世界を作る。小規模なクリエイターと一緒に作品を育て、そこから10年先を見据えて新しいIPを生み出していく。ビジネスとしても夢があるし、東映という会社がこれまで持っていなかった新しいイメージを作る挑戦としても面白い。
ただ、それを理解したうえでも本音を言えば、やっぱり「映画会社・東映が作るゲーム」も見てみたい。
最近のゲームには、『JUDGE EYES』や『Ghost of Tsushima』、近年の『FINAL FANTASY』シリーズのように、ストーリー、映像、演出、世界観まで含めて、一本の映画や長編ドラマに入り込むような感覚で遊べる作品が増えている。ゲームのグラフィックが映画に近づいただけではなく、作品によっては実在の俳優を主要キャラクターに起用し、数十時間をかけて登場人物と一緒にその世界を生きるという、映画とはまた違った物語体験ができるようになった。
だからこそ、映画やテレビを長年作り続けてきた東映が、このタイプのゲームに挑戦したらどうなるのかを見てみたい。
必ずしも仮面ライダーやスーパー戦隊でなくてもいい。大人をターゲットにした刑事物でも、時代劇でも、SFでも、まったく新しいヒーローでもいい。東映には脚本、演出、アクション、特撮、キャラクター作りなど、長い映像制作の中で培ってきたものがある。それを実力のあるゲームスタジオと組み合わせれば、「映画会社がゲームを作る意味」を感じられる作品が生まれる可能性は十分あると思う。
東映ゲームズに最初に期待したのは、仮面ライダー版『Marvel’s Spider-Man』のようなゲームだった。実際に始まったのは、それとはかなり違う、小さなクリエイターたちと新しいIPを育てる挑戦だった。それは面白い方向性ではあるが、いつかは映画館のスクリーンで何十年も物語を作り続けてきた東映が、本気で「遊べる映画」のような一本を作ることに期待している。


